鹿児島県霧島アートの森 開園二周年 美術講演会  
 
鉄の彫刻の最初の例というのは、ピカソなどによるものです。ピカソは皆さん画家であると思っていらっしゃるかもしれませんけれども、もちろん絵が中心的な仕事ですが、彫刻家としても20世紀最大の存在なのです。ゴンザレスと言う彫刻家と一緒に、最初の鉄の彫刻を制作して、鉄の彫刻の面白さを引き出した人です。
 そうするうちに、鉄に関しても保存に適した新しい素材、コールテン鋼をはじめとする新しいいろいろな素材や技法が開発されて、こんにちでは最も一般的な彫刻素材となりました。霧島にも、鉄の彫刻で有名な若林奮さんの作品があります(スライド画像:K.07)。芝生の中に植え込みがあって、変わった作品と思われるかもしれません。「あれは鉄ではないじゃないか」と思われるかもしれませんが、四隅を見たら、無垢の鉄のさいころみたいなのがぼんぼんぼんと置いてあって、鉄が非常に魅力的な彫刻的要素になっています。
 デイヴィッド・スミスはそういう鉄の彫刻で大家をなした人です。この作品は非常にリズミカルなおもしろさがあります(スライド画像:S.21)。彫刻は、下手すると大味になってしまいます。時には大味の面白さというのもあるかもしれませんが。たとえば、最初にお見せしたスネルソンのパイプを組み上げたような彫刻は、絵画のようなデリケートなところはありませんが、その代わり、構造的な強さがあると言えるでしょう。絵画とはまた別の魅力があるわけです。しかし、デイヴィッド・スミスは彫刻に、むしろ絵画的とも言ってもいい面白さ、非常にデリケートな表現、細部の面白さというのを初めてもちこんだ人です。
 
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 これは《キュービ》と言われているシリーズで、表面をグラインダーで磨き、その磨き跡の光の面白さをそのまま残した作品群です(スライド画像:S.23:S.24:S.25)。これらはステンレスで、もともとさびない素材ですけれども、その表面を磨き上げて、グラインダーの跡をあえて残すこと。これを絵画的と言うと少し言い過ぎかもしれませんけれども、彫刻的な構造を持ちつつ、表面に絵画的な面白さを出しているわけです。 彫刻は「色の富を奪われた芸術」という言い方もできるのです。ブロンズにしても大理石にしても木にしても、素材の面白さ、あるいは物質的な存在の強さを表すために、通常は絵画のような色を塗りません。色を塗ることはむしろ邪道だと思われています。「ものの存在感だけで勝負する」ということです。絵画だと一番重要な要素である色彩を彫刻は奪われていたということになりますが、そうしたなかでデイヴィッド・スミスは彫刻に最初に色を付けた作家でもあります。最初にご紹介した《Five Units Equal, 1956》(スライド画像:S.13)も薄い緑色が付けられているのです。そういう意味では絵画的な美しさと言ってもいいような効果を狙っています。
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 彫刻と色彩ということについては、いろいろなエピソードがありますのでお話しします。デイヴィッド・スミスを支えたクレメント・グリーンバーグと言う有名な評論家がいます。彼は「絵画と彫刻にはそれぞれ別の本質があって、色はあくまでも絵画のものだ」という信念を持っていたのです。デイヴィッド・スミスとは非常に信頼関係があって、スミスが亡くなったあと、その遺族から委託を受けて、グリーンバーグは彼の作品の著作権を預かったのですが、彼は自分の預かった作品のうち、スミスが着彩した作品の色を自分自身の信念に基づき取り去ってしまったらしい。
 そこが非常に問題なのです。「彫刻に色を付けるべきではない。デイヴィッド・スミスは一部の作品では、彫刻の本質に反して色を付けてしまったのだ」というふうに彼は信じて、預かった彫刻から色を取ってしまったわけですが、ところが今日では、スミスは逆に、彫刻に色というもののニュアンスを持ち込むことによって彫刻の世界を広げた作家として評価されているのです。グリーンバーグという評論家が色を取り去ってしまったことに対して、激しい議論が起きたのも当然のことといわなければなりません。
 霧島アートの森にも、もちろん色のない大理石や御影石の作品などがありますが、この前の芝生ともう一つ向こうの芝生に、非常に美しい、むしろ色彩彫刻と呼ぶべき作品もあります(スライド画像:K.08)。色がないということはある意味では彫刻の強さかもしれないけれども、そればかりには甘んじていない彫刻も生まれているわけです。
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 これは、イギリスの彫刻家アンソニー・カロと言う人の作品です(スライド画像:S.26 & :S.27)。おわんのような回転する球面体とストレートな鉄板の組み合わせにからできています。基本的な構造を組み合わせることによって彫刻の原点に立ち返るという、抽象彫刻の第一人者と言ってもよい作家です。これはせいぜい人の背丈ぐらいの高さですが、このような比較的小ぶりな作品が、先程お見せした美術館の周囲に設置されているのです。その建物は非常にクラシックなノルマンディー風の建築なので霧島とはとても対比的です。ここは何か宇宙船がぽっと山の上に降りてきたみたいな、非常にメカニカルな建物で軽やかですが、ストームキングは何か重厚な別荘風の小さなお城という感じです。
 これはジョージ・リッキーと言う作家の鉄でできた、風で動く彫刻、モビールです(スライド画像:S.28)。この巨大な鉄の板がふわふわ風で傾いています。その向こうに神殿風の円柱が見えますが、ここの土地を以前所有していた大富豪が庭園の装飾に作った円柱がそのまま残っているのです。非常にクラシックな空間に、モダンな彫刻が同居しています。


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